― 負担をお願いする前に、市は何を変えたのか

6月定例会では、市民の皆さまに新たな負担をお願いする議案が2件、可決されました。子どもの通院医療費への自己負担の導入と、地域児童育成会の育成料の引き上げです。どちらも、可決までの過程で数字が動いています。その動き方を並べてみると、宝塚市の行財政改革が今どの段階にあるのかが見えてきます。副議長として議会全体を見渡す立場から、6月定例会で何が議論されたのかを整理します。

1. まず、動いた数字を並べます

議論の出発点として、審査の過程で示された数字を対置します。

項目当初示された案可決された内容
医療費助成見直しの効果額約2億3千万円約4700万円(試算)
育成料(延長利用なし・月額)12,000円(原案)10,000円(修正案)
議員定数24人(2人削減)25人(1人削減)

3つとも、当初案より市民負担が軽い、あるいは削減幅が小さい側に着地しています。医療費助成については、当初の自己負担600円案が見直された結果として効果額が約2億3千万円から約4700万円へ縮んだことが、補正予算の審査の中で明らかにされました。加えて、システム改修等の事務費に約2千万円、新規で始めるオンライン相談サービスにも費用がかかると説明されています。

効果額と費用の関係について、市は「今回は政策転換にかかる費用で一時的なものである。効果額は持続性があるので、最初にかかる経費は行財政改革を実行する上で必要なものと考えている」と答えています。

2. 順序の問題 ― 負担をお願いする前に、市は何を変えたのか

育成会条例の反対討論には、次の指摘が記録されています。「公設公営の費用が他市と比較して非常に高いことや、公設公営の支援員に欠員が生じている状況であっても民間参入の具体的な動きもない状況である。行財政改革を進めていく必要はあるが、まず市が自ら改革に取り組んだ上で市民負担を求めるべきであり、市側の具体的な努力が十分に示されないまま市民負担を増やすことは適切ではない」。

これは金額の多寡の話ではなく、順序の話です。私はかねてから、宝塚市の財政課題を「お金が足りない」という問題ではなく、組織の仕組みに根ざした問題として捉えてきました。何を続け、何をやめるのかを組織として判断する基準がなければ、支出は減らず、結局は市民負担で埋めることになります。

育成料が平成24年から8千円に据え置かれてきたこと自体は、見直しの必要性を示しています。同時に、公設公営の運営コストが他市と比べて高いという状態が続いてきたことも、審査の中で指摘されました。負担をお願いする議案の中に、その両方が含まれているという構造を見落とさないようにしたいと考えています。

3. 負担増は、価値の創出とセットになっているか

医療費助成の反対討論にも、同じ構造の指摘があります。「当初の600円案から自己負担額が見直された結果、効果額は大きく減少しているが、当初の案を市民に説明して理解を求め、その効果額を市民に有意義な価値のある施策に転換する案とセットで示すことが行財政改革だと考える。単なる市民の負担増ではなく、新たな価値の創出とセットで進めるべきである」。

一方、賛成討論では「少子高齢化が進み、社会保障関連費の増加が見込まれる中、制度を持続可能なものとしていく視点も必要である」「高校生世代まで助成対象を拡充する内容を含んでおり、子育て支援の充実につながるものとして一定評価できる」と述べられました。市民の意見を踏まえて600円案から見直しが行われたことと、オンライン相談サービスの導入の検討を評価する声もあります。

どちらの側も、持続可能性を否定していません。分かれているのは、負担をお願いする段階で「その先に何が生まれるのか」を市民に示せているか、という点です。市が委員会の審査で「無料であったものに負担が生じることについて、市民に十分理解されているとは考えていない」と答えていることは、この論点がまだ閉じていないことを示しています。

私は、市民の皆さまとの協働は、決まったことを説明する場面ではなく、負担と価値をセットで設計する段階から始まるべきだと考えています。

4. 数字の根拠を、その場で問えているか

水道事業会計の補正予算は全会一致で可決されましたが、審査の中身は示唆に富んでいます。労務単価の改正に伴い債務負担行為額を691万5千円増額する議案に対し、「土木に関する労務単価の上昇が4.5%であれば計算上は400万円程度の増額になるはずで、約690万円の根拠は何か」という質疑が出ました。

答弁は、上下水道局では受変電設備を兼ねている施設の点検が多く、土木の労務単価に加えて建築保全業務の労務単価も適用し、委託業務全般の変更として取り扱ったため差が出た、というものでした。

金額としては大きな議案ではありません。しかし、示された数字を計算し直し、差分の理由を確認するという作業は、データに基づく政策判断の最小単位です。この作業が全ての議案で行われているかどうかが、議会の審査の質を決めます。

5. 議案審査そのものを問い直す

令和8年6月29日、市議会は大正大学地域創生学部公共政策学科教授の江藤俊昭氏を講師に迎え、議員研修会を開催しました。テーマは「二元的代表制を踏まえたこれからの議会の役割」です。研修で示された論点のうち、6月定例会と直接つながるものを2つ挙げます。

議員にとって最も重要なのは議案審査である

「必要に応じて専門家の意見を聞き、委員会で十分に議論することが重要。反対討論だけが行われ、賛成討論がないまま『賛成多数で可決』となる審査は望ましい議論とは言えず、委員会でどのような議論が行われたかが大切である」。今回の医療費助成と育成会の2件は、いずれも賛成討論と反対討論の双方が記録されています。可決という結果だけでなく、どの論点で分かれたのかが残っている状態です。

議会基本条例を、作った側が理解しているか

「宝塚市議会では約15年前に議会基本条例を制定しているが、議員自らが作った議会基本条例を理解していなければ、執行機関から提出された議案について適切な議論ができているとは思えない」。この指摘を受け、議会としては「現在、議会改革の中で条例の検証は行われており、学び直していきます」と応じています。

市に対して行財政改革を求める議会が、自らの仕組みを検証していなければ、その要求は片側からのものになります。研修で示されたのは、議会自身にも同じ物差しを当てるという課題でした。

6. 議会自身の判断 ― 議員定数

議員定数条例の改正は、継続審査を経て令和8年5月22日に採決され、2人削減の原案を1人削減に改める修正案が賛成多数で可決されました。定数は26人から25人となり、次の一般選挙から適用されます。

質疑では「行財政改革で市民に負担を強いている中、議会としての覚悟を示す提案か」と問われ、「議会は市に対して、行財政改革を進めるよう求めてきた。市民の負担が増える状況で、議会として覚悟や決意を示したい」との答えがありました。一方で「議員定数削減は民意の入り口を減らすことになるため責任ある判断が必要」という意見も委員間討議で述べられています。

定数を減らせば、市民が議会に届ける経路は確実に細くなります。「質を落とさないよう、それぞれの議員が今よりも頑張らないと現状を維持できない」という答弁は、削減を決めた側が引き受けた条件そのものです。この条件が守られているかどうかは、次の一般選挙を待たずに、日々の議案審査の中で問われ続けます。

7. 私の判断

医療費助成の条例改正と、育成会条例の改正。この2件について、私は反対の立場をとりました。いずれも賛成多数で可決されています。

制度を持続可能にする必要があるという点に異論はありません。判断が分かれたのは、市民に負担をお願いする順序と、その負担が何に転換されるのかが示されていない段階で決めることの是非です。効果額が約2億3千万円から約4700万円へ縮み、事務費に約2千万円がかかるという構図は、行財政改革として何を達成しようとしているのかを、もう一度説明し直す必要があることを示していると考えています。

議決は済みました。ここから先は、市が「実施段階においては、改めて丁寧に説明していく必要がある」と答えたとおりに動いているか、育成会の待機児童対策と保育の質の確保が進んでいるか、温泉利用施設の再開が示されたスケジュールどおりに進んでいるかを点検する段階に入ります。


反対した議案であっても、可決された以上は市民の暮らしに影響します。その影響を見届けることは、賛否とは別に議会が負う責任です。皆さまの日々の暮らしの中で感じる「気づき」や「想い」を、ぜひお聞かせください。