令和6年度決算の審査が終わりました。今回は、宝塚市の財政状況について、お伝えいたします。


「113億円の不足」が「63億円」に ― それでも安心できない理由

宝塚市の財政状況を語る上で、避けて通れない数字があります。

今後10年間で、約63億円の財源が足りなくなる。

この数字を聞いて、「大変だ」と思う方も「よくわからない」と感じる方もいるかもしれません。実はこの数字、1年前の試算では約113億円でした。50億円も改善したのは、なぜでしょうか。
きっかけは、令和7年2月の出来事でした。市内にお住まいの岡本光一さん・明美さんご夫妻から、市立病院の建て替えのために約254億円という巨額の寄付がありました。日本の自治体への寄付としては、歴史的な規模です。

この寄付によって、市立病院の建て替えに使うはずだった借金(市債)が大幅に減り、将来の返済負担が軽くなりました。その結果、10年間の不足額が113億円から63億円へと縮小したのです。

ただし、12月定例会で市も議会も繰り返し確認したのは、こうした認識でした。

「短期的な危機は緩和されたが、構造的な収支不足が解消されたわけではない」

つまり、宝塚市の家計は、臨時の大きな収入で一息ついたものの、毎月の収支が赤字になる体質自体は変わっていないということです。
254億円の寄付は、宝塚市の財政が「治った」ことを意味するのではなく、「立て直すための時間をいただいた」ということだと受け止めています。この猶予を、どう活かすか。それが今、問われています。

数字で見る「宝塚市の家計」

市の財政を、もう少し具体的に見てみましょう。

経常収支比率:96.9%(令和6年度決算)

これは、市税などの毎年入ってくる収入のうち、96.9%が人件費・社会保障費・借金の返済といった「固定費」に消えていることを意味します。自由に使えるお金は、わずか3.1%しかありません。
家計に例えると、月収30万円のうち約29万1千円が家賃・光熱費・ローン返済・保険料で消え、残り9千円で食費や交際費をやりくりしているようなものです。この比率は前年の95.8%からさらに悪化しており、何か想定外の出費が発生した場合の余裕がほとんどない状態です。

実質単年度収支:約4.2億円の赤字(2年連続)

貯金の取り崩しなどを除いた「本当の収支」は、2年連続で赤字です。つまり、宝塚市は今、貯金を切り崩しながら暮らしている状態が続いています。
113億円が63億円に改善したのに、なぜこの数字はむしろ悪化しているのか。それは、63億円の改善が寄付という外部の力によるものだからです。

市の財政を動かす「組織運営の仕組み」自体は、まだ抜本的には変わっていません。お金の問題の前に、組織の問題がある ― これが、私が一貫して指摘してきたことです。

「聖域なき見直し」― 私たちの暮らしに影響する変更

こうした財政状況を受けて、市は全591事業の見直しに着手し、令和7年度に約2.8億円の効果額を生み出す取り組みを進めています。12月定例会では、市民の暮らしに直接関わるいくつかの重要な変更が審議されました。

◆ 高齢者バス・タクシー運賃助成の廃止(令和7年度末)

現在、一般の高齢者に対して行われているバス・タクシー運賃の助成が終了します。今後は、障害をお持ちの方など、特に支援が必要な方への助成に集中する方針です。近隣の伊丹市や川西市ではすでに同様の見直しが行われており、自治体間の公平性も考慮された判断です。

この見直しは、単なる予算削減ではなく、「真に支援が必要な方にリソースを集中する」という選択と集中の考え方に基づいています。限られた財源だからこそ、どこに届けるかの優先順位が問われます。

◆ 公共施設の使用料・手数料の改定(27条例の改正)

「受益者負担の適正化」という考え方に基づき、公共施設の利用料金が見直されます。たとえば、市役所や公園の駐車場料金は引き上げられ、夜間の無料時間も廃止されます。
この改定の背景には、施設を利用する人と利用しない人の間の「公平性」という考え方があります。施設の維持管理にかかる費用を、利用者にも一定程度負担していただくことで、市税だけに頼らない仕組みをつくる狙いです。

今回の改定は「受益者負担適正化ガイドライン」に基づき、施設ごとに原価を分析した上で算出されたものです。場当たり的な値上げではなく、仕組みに基づいた判断であるという点は、市民の皆さんにもお伝えしておきたいところです。一方で、「なぜこの料金になったのか」の丁寧な説明が、市民の理解と納得を得るために不可欠です。

なお、死産児に係る火葬場使用料を無料とする条例改正も同時に行われ、市民の負担軽減にも配慮されています。この改正には、市民や議員からの声が反映されました。

◆ 蔵人共同浴場(ほっこり湯)の廃止(令和8年度末)

利用者の減少と施設の老朽化により、廃止が決定しました。

◆ その他の主な見直し

・中学生学習理解度調査 → デジタルドリルへ転換 令和7年度末
・エフエム宝塚への委託料を段階的に減額 令和8年度〜
・市庁舎の開庁時間の短縮 令和8年1月

「財政非常事態宣言」は出されなかった ― その理由

令和6年12月、宝塚市議会は「財政非常事態宣言の発令を求める決議」を全会一致で可決していました。当時の財政見通しが113億円の不足を示しており、議会として「このままでは立ち行かない」という強い危機感を表明したものです。
しかし、令和7年4月に就任した森臨太郎市長は、宣言の発令を見送りました。その理由は主に2つです。
1つ目は、254億円の寄付により、最も大きな財政リスクだった病院建て替えの資金問題が大幅に改善されたこと。2つ目は、宣言という「看板」を掲げるよりも、高齢者助成の見直しや手数料改定といった具体的な改革をすでに実行に移していること。

しかし、宣言には「市民と危機意識を共有する機会」としての意味もあると考えています。行財政改革は行政だけで完結するものではありません。市民の皆さんとともに、「自分たちのまちの持続可能性」を自分ごととして捉え、改革の当事者になっていくための対話が、これまで以上に必要です。

もう一つの課題 ― 大規模事業の行方

宝塚市は現在、2つの巨大プロジェクトを同時に進めています。

◆ 新ごみ処理施設(約510億円)

老朽化したクリーンセンターに代わる新施設の建設が進んでいます。総事業費は当初の約468億円から約510億円に増額されました。令和14年度までの長期事業であり、建設資材の高騰がさらに予算を圧迫するリスクがあります。

◆ 市立病院の建て替え(令和13年度開院目標)

寄付金を主な財源として、現在地での建て替えが決定しています。2026年1月には、寄付者の追加支援(4億円)により、最新型の手術支援ロボット「ダビンチ」が兵庫県内で初めて導入されました。

この2つを合わせると約850億円。宝塚市の一般会計予算(年間約900億円規模)に匹敵する規模です。

12月定例会では、市内施設の改修工事等で入札不調(事業者が集まらない、価格が合わない)が相次いで報告されました。建設業界の人手不足と資材高騰は全国的な課題であり、今後の大規模事業にも影響が及ぶ可能性があります。
これらのプロジェクトのコスト管理や工程管理は、市の財政を左右する最大の変数です。新ごみ処理施設の事業費が当初から42億円増額された事実は、建設資材のさらなる高騰によって、この数字がさらに膨らむリスクがあることを示しています。

経営的な視点から言えば、大規模プロジェクトにおいて重要なのは「予算を守る」ことだけではなく、リスクを早期に察知し、対応策を講じる仕組みをつくることです。これは、まさに私が提言してきた「予防的財政管理」の考え方そのものです。

「猶予」を「転換」に変えるために

宝塚市の財政改革は、254億円という歴史的な寄付によって猶予期間を得ました。しかし、この構造的な問題を先送りにしたのではなく、立て直しのための時間を与えてくれたと考えています。
経常収支比率96.9%という数字が示すように、市の財政は依然として硬直化しています。高齢者助成の見直しや手数料の改定は、その第一歩に過ぎません。

今必要なのは、「削減」の先にある「転換」だと考えています。歳出を切り詰めるだけでは、この比率を引き下げることはできません。歳入の確保(ふるさと納税の強化、遊休資産の活用など)と、市民・事業者の皆さんとの協働による新しい価値の創出を、同時に進めていく必要があります。

私は2024年の議会活動を通じて、宝塚市の財政課題を「お金が足りない」という問題ではなく、「組織運営の仕組みの問題」として捉え、一貫して提言を重ねてまいりました。
変化は確実に起きています。しかし、変化のスピードが課題の深刻化に追いついているかという点では、まだ道半ばというのが率直な思いです。

「声を聴く」「現場を見る」「形にする」 ― この基本姿勢を大切に、引き続き具体的な提言を重ねてまいります。

皆さんの暮らしに直接関わる変更だからこそ、皆さん一人ひとりの声が大切です。「これは残してほしい」「ここは仕方ない」「こうすればもっとよくなるのでは」 ― どんなことでもお聞かせください。一つひとつの声が、次の提言の土台になります。